1970年ノーベル物理学賞(2)

受賞理由

固体物理学における重要な応用をもたらした反強磁性およびフェリ磁性に関する基礎的研究および発見

受賞者

ルイ・ネール
ルイ・ネール

フランスフランス

解説

磁石は鉄をくっつける道具として身近ですが、実は種類がいろいろあります。ネール博士は、普通の磁石と違う性質を持つ物質を発見しました。一つは反強磁性体で、細かい磁石がきれいに向きをそろえて打ち消し合うので外からは磁力が見えません。もう一つはフェリ磁性体で、打ち消しきれずに弱い磁力が残ります。この仕組みを理解することで、記録用テープや電子部品の材料が作られるようになりました。つまり、音楽を録音したりスマホを動かしたりするのに役立っているのです。

関連キーワード

反強磁性

隣接するスピンが互いに反対向きに整列し、巨視的磁化がゼロになる磁気秩序。磁場応答が弱いが、テラヘルツ帯域でのスピンダイナミクスが高速であるため次世代メモリへの応用が期待される。ネール温度以下でのみ秩序が安定し、温度上昇で常磁性へ移る。中性子回折や共鳴X線散乱で磁気構造が観測可能。ネールの理論はAFM材料の設計指針を与え、スピントロニクス分野の鍵となっている。

フェリ磁性

大小のスピンが反平行に配列し、打ち消しきれない分だけ磁化が残る磁気状態。磁性セラミック(フェライト)の多くはフェリ磁性体で、高周波特性と化学安定性に優れる。温度を上げると補償点で磁化がゼロになる場合があり、その特性は磁気光学デバイスの温度制御に利用される。ネールの二亜格子モデルが数値的記述を与え、磁気媒体開発の基盤となった。現在はガーネット系材料や希土類–遷移金属合金で磁気スイッチ素子が研究されている。

ネール温度

反強磁性またはフェリ磁性の秩序が壊れる臨界温度。熱揺らぎが交換相互作用エネルギーを上回るとスピンが無秩序化し、物質は常磁性となる。物性測定では比熱ピークや磁気感受率の変化として検出される。磁気デバイスの動作温度設計に欠かせない指標で、希土類マンガン酸化物などの機能性材料でも多用される。名称はルイ・ネールの功績を讃えて付けられた。

スピン

電子や原子核が持つ量子力学的な“回転”量で、磁気モーメントの源。スピンの向きと相互作用が物質の磁気性を決定する。ネールはスピン間の交換相互作用が反平行を好む場合に反強磁性が生じることを理論化した。近年はスピントロニクスとして電流とスピンを同時に扱うデバイスが開発され、キラルスキルミオンや自旋整流など新機能が注目される。スピンの制御は量子計算や医療画像にも応用が広がっている。

磁気構造

結晶中のスピン配置パターンを指し、G型・C型・A型など格子幾何学によって分類される。磁気構造はX線磁気回折や中性子散乱で直接観測でき、物質の電子相関を知る鍵となる。ネールの発見以降、層状マンガン酸化物や重い電子系で複雑な多重q磁気構造が研究されている。磁気秩序と超伝導、マルチフェロイック性の競合もホットトピック。構造モデルは第一原理計算と照合され、新材料探索が加速している。

磁気記録媒体

ハードディスクや磁気テープなど、磁化の向きをデータとして保存する材料群。高密度化のためには小粒径で高い磁気異方性を持つフェリ磁性または反強磁性格納層が必要となる。ネールの理論は粒子が超常磁性に転移する温度・寸法を予測し、記録寿命評価に欠かせない。現在はビットパターンメディアやAFMベースのメモリ素子が研究され、熱アシスト記録でネール温度制御が利用される。情報社会の根幹を支える応用分野である。

交換相互作用

量子力学に由来するスピン間の有効相互作用で、クーロン相互作用とパウリ原理の組合せから生じる。符号が正なら強磁性、負なら反強磁性を安定化させる。ネールは結晶構造によって交換経路が変わり符号反転が起こることを示し、超交換機構を提案した。交換定数は第一原理計算や非弾性中性子散乱で決定され、磁気シミュレーションの入力パラメータとなる。スピントロニクスや量子情報素子で相互作用制御技術が重要視されている。

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