1989年ノーベル物理学賞(1)
受賞理由
分離振動場法の発明と、それを利用した水素メーザーおよび原子時計への応用(Phys. Rev. 76 (1949) 996、78 (1950) 695–703、126 (1962) 603–615 ほか)
受賞者
アメリカ合衆国
解説
みなさんの腕時計やスマホはとても正確な時間を示します。その秘密は、原子という小さな粒のリズムを利用した“原子時計”にあります。ラムゼー博士は、原子が出すリズムを二つに分けて比べることで、よりくっきりとした信号を取り出す方法を考えました。この工夫により、世界中の時計をぴったり合わせられるようになり、GPSやテレビ放送も正確に動いています。博士のアイデアは、私たちの日常を時間の面から支えているのです。
関連キーワード
分離振動場法
二つの短い電磁パルスを空間的に離して原子や分子に当て、干渉縞から遷移周波数を高分解能で測定する技術。1949年にラムゼーが提唱し、磁気共鳴とスペクトロスコピーの精度革命をもたらした。線幅はパルス長ではなくパルス間隔に反比例するため極端に狭くできる。現在も原子時計や精密測定、量子ビット評価の標準手法として利用される。
水素メーザー
水素原子の1.42 GHz超微細遷移を利用するマイクロ波発振器。高Qキャビティ内で誘導放出を自己励振させることで、優れた短期安定度(10^{-15}程度)を実現。分離振動場法で初期周波数確定を行い、地上局やVLBIの基準として広く使われる。周波数ドリフトが小さく、宇宙探査や基準系実験に不可欠。
原子時計
原子内部の遷移周波数を基準に時刻を刻む装置。セシウム133を用いたビーム型や光格子型、イオン型など多様な実装がある。ラムゼー法によりライン幅が狭まり、SI秒の定義は9 192 631 770 Hzに固定された。今日のGPS、インターネット時刻同期、金融取引の時間証明に欠かせない。
ラムゼー共鳴
分離振動場法で観測される干渉縞状の共鳴パターン。中央ピークが鋭く、サイドローブが周期的に並ぶ。ピーク間隔は自由進行時間Tの逆数で決まり、位相雑音に対して高い感度を持つ。量子ビットのコヒーレンス時間測定や磁気センサーの感度向上にも応用される。
秒の再定義
1967年、国際度量衡総会はセシウム133の超微細遷移周波数を用いて「秒」を定義し直した。分離振動場法がその測定精度の鍵となった。以後、時間計量は天文学的観測ではなく量子遷移に基づく仕組みとなり、物理定数系の統一が進んだ。